1.「もったいない」が口癖のじいちゃんからの財産分与
今日はじいちゃんの四十九日。
納骨と御斎を無事に終えた後、
父が徐に親族全員に話し始めた。
「じいちゃんは孫たちが来ると本当にうれしそうだった。
ここまで長生きできたのは孫たちのおかげ。」と、僕たち孫全員にも財産分与があった。
こんなことが現実に起こるのかと、驚いた。
口癖が「もったいない」だったじいちゃんは
贅沢を全くしないひとだった。
魚の皮を残しているのを見たことがない。
そして、自分自身のために買い物をしたところを見たことがない。
大正10年に生まれて
幼い頃から丁稚奉公に、早稲田の夜間入学、
戦争では医療班として、
戦後混乱期に数々の会社を興しては何度も成功と失敗を繰り返し、
実の兄と立ち上げた会社を解雇され、
その後起死回生をかけた事業は認可がなかなか降りず実現せず。
子どもが生まれるも1歳ほどで亡くしてしまったり、ばあちゃんが70歳くらいで先に旅立ってしまったり。
‥想像を絶するほどつらいこと、
苦しいことがたくさんあっただろうに
いつも「ありがとう」ばかり言って明るく朗らか、怒っているところを見たことがなかった。
「はたらくことは楽しいぞ」
「おれもどこかはたらけるところはないか?」
と98歳で真剣に聞いてきたじいちゃん。
そんなじいちゃんが遺してくれたもの。
そしてその判断をしてくれた父。
僕は泣いた。